ヘム(鉄・プロトポルフィリンⅨ;FePP)はポルフィリン環の中に鉄が配位した構造をもち、ミクロゾームに存在するヘムオキシゲナーゼ(HO)によってビリベルジン、CO、鉄に分解される(図)。哺乳動物において、ビリベルジンは可溶性蛋白質であるビリベルジン還元酵素によってビリルビンとなり、その後肝臓でグルクロン酸抱合を受けてから胆汁中に排泄される。それゆえビリベルジンとビリルビンは胆汁色素と呼ばれる。
HOの生理機能として生じた生成物は次のような重要な生理活性をもつことが明らかになり、注目を浴びるようになっている。まず胆汁色素には強力な抗酸化作用があるので酸化ストレスに対して防御的に働いており、HOの誘導が酸化ストレスに対し保護的に働くとの報告もみられる。COはグアニル酸シクラーゼ(guanylate cyclase;GC)を介してサイクリックGMP(cGMP)依存性リン酸化酵素を調節し、その結果多彩な生理機能を発揮する。特に肝内の血流調節には、NO(一酸化窒素)よりもCOのほうが重要であるとの報告もみられる。
HOにはHO-1、HO-2、HO-3という3つのアイソザイムがある。HO-1は肝臓、脾臓、脳、皮膚、マクロファージ、心臓などに局在し、HSP32(heat shock protein 32)の別名で呼ばれることでもわかるように各種ストレスで誘導され、現在では最も鋭敏なストレスマーカー蛋白質として認識されている。誘導要因はさまざまでヘムやヘム蛋白質の投与、重金属投与、細胞内の酸化還元状態に影響を及ぼす有機化合物投与、エンドトキシン投与、UV照射、高酸素あるいは低酸素状態、IL-1のようなサイトカイン投与など多岐にわたっている。HO-2は構成型で、その局在は肝、脳、精巣などである。HO-3は近年発見されたが、その活性はきわめて低い。