カルポニンはアクチンフィラメント、カルモジュリンおよびトロポミオシンと結合し、トロポニンTと免疫学的交差反応性を示す蛋白質として1986年に発見された。分子量は約33kDaで平滑筋組織中に発現している。アミノ酸の一次構造としては、骨格筋や心筋のトロポニンTのC末端部分、T2の広い領域と、N末端領域の一部分、トロポニンIの抑制機能ドメインなどと類似したアミノ酸配列をもつ。
カルポニンの生理機能は平滑筋の弛緩作用であると類推されている。カルポニンの一次構造には特徴的な3回の繰り返し配列が存在するが、プロテインキナーゼC(PKC)がその部位のセリンまたはスレオニンをリン酸化すると、カルポニンのトロポミオシン・F-アクチンフィラメントへの結合能が減弱する。このことから、カルポニンの平滑筋における収縮制御機能はPKCによって調節されていると考えられる。
カルポニンと同様に平滑筋細胞に特異的かつ高濃度に存在する蛋白として、SM22蛋白質が発見されており、両者は近縁蛋白質と考えられている。血管平滑筋の脱分化現象は動脈硬化やPTCA(経皮的冠動脈形成術)後の再狭窄などにおける重要な原因と考えられているが、この脱分化現象の分子マーカーとしてカルポニンとSM22が注目されている。実際、培養平滑筋細胞において時間経過とともに脱分化すると、急速にカルポニンの発現が減少する。また、培養平滑筋細胞にカルポニン遺伝子を過剰発現させると細胞の増殖と遊走が抑制されることから、その血管内膜肥厚抑制作用を利用した遺伝子治療への応用も期待されている。
以上述べたカルポニンは塩基性蛋白であるが、近年酸性の等電点をもつ新しいアイソフォームである酸性カルポニンが発見された。酸性カルポニンは平滑筋のみでなく心筋、骨格筋、脳、生殖器、腎臓、脾臓などでも発現しているが、その生理機能は不明である。