頸静脈怒張〈distension of the jugular veins〉

頸静脈の観察は外来にて簡単に行えるため、循環器診療においてきわめて有用である。頸静脈には内頸静脈と外頸静脈があり、ともに仰臥位においては健常者でも視診で確認できることがあるが、坐位においても頸静脈が拡大(怒張)し、仰臥位にてその増強を認めれば静脈圧の上昇を強く示唆する。一般に心不全に静脈圧上昇を伴う場合、あるいは心タンポナーデや収縮性心膜炎が存在する場合などに吸気時に右房圧の上昇が著明となり、吸気時に頸静脈の怒張が顕著となる(Kussmaul徴候)。

内頸静脈の観察は、通常右内頸静脈にて平静呼気終期に行う。患者の頸部に低い枕をあてがい半座位にして内頸静脈の接線方向に光を当て、最大の拍動を観察した点とLouis角(胸骨柄と胸骨体の接合部における角状突起)との垂直方向の距離、外頸静脈では、半座位にて鎖骨直上で静脈を圧迫して十分に怒張させ急に解除したときの、静脈怒張の最高位とLouis角との距離にて静脈圧が推定できる。頸静脈怒張に加え、呼吸困難、浮腫などの症候があればうっ血性心不全をまず疑うが、先天性心疾患や三尖弁膜症、肺動脈弁膜症、肺動脈狭窄症、肺高血圧症や肺塞栓症などに伴う右心不全、収縮性心膜炎においても右心房圧が上昇し、頸静脈怒張を認める。その他、上大静脈症候群や一部の縦隔腫瘍においても頸静脈怒張を認める。