心臓は、全身の臓器に血液を送るポンプであり、その機能不全により低心拍出に伴う臓器灌流障害や、うっ血に伴う静脈灌流障害から全身の臓器障害をきたす。また、引き起こされた臓器障害はホルモンやサイトカインなどを介した液性シグナルネットワークなどの機序を通じ、心機能障害を引き起こす。また、何らかの臓器障害はそれ自体が心機能に影響することもある。循環器病学において多臓器連関とは、心臓と他の臓器との間で互いに相互作用を及ぼして病態を形成していることをいう。
代表的な臓器連関として、「心腎連関」と「心肝連関」がある。循環器系において、臓器連関が注目を集め始めたのは、そもそも心疾患患者において予後を規定する合併症として腎機能障害が報告されてからである。心腎連関は、心・腎いずれの臓器に端を発することもあったり、発症の時間経過もさまざまであったりする。また、心臓と腎臓はともに交感神経を介して制御されており、近年ではこれらに脳を加えた「脳心腎連関」という概念も提唱されており、これは、各臓器に分布する自律神経と脳を介した神経シグナルネットワークの関与が考えられている。
肝臓との連関においては、古くより心不全において「うっ血性肝障害」や「shock liver」といった肝機能障害がみられることがわかっていた。しかしその後、肝移植、経頸静脈的肝内門脈肝静脈シャント形成術、外科的門脈体循環シャント形成術後に心不全関連死がいくつか報告されたことから、近年では肝硬変に関連した心障害が注目されている〔肝硬変性心筋症(cirrhotic cardiomyopathy)〕。
それ以外の多臓器連関としては、心肺連関、心腸連関、心骨格筋連関、心脂肪連関などが研究されており、さらには甲状腺ホルモンや性ホルモンなどの体液性因子の関与も考えられている。