細胞外のシグナルは通常まず細胞膜上のレセプターにより認識され、細胞質内において主にリン酸化のカスケードを経て、最終的に細胞質内または核内の機能分子をリン酸化する。一般に外的刺激は細胞増殖因子やサイトカインなどの液性因子の場合が多いが、熱や浸透圧、紫外線なども刺激となりうる。心筋細胞ではカテコラミンを代表とする神経や液性因子ばかりでなく、血行力学的負荷といった機械的負荷が重要な刺激となり、心肥大や遺伝子発現を誘導する点が特徴的である。心臓を体外に取り出し伸展することにより蛋白合成の亢進が認められる。さらにこの現象は一切の液性、神経性因子の影響を取り除いた心筋培養細胞系においても観察されている。つまり、機械的負荷という物理的刺激は心筋細胞を伸展することにより刺激として感知され、細胞内のシグナルへ変換されると考えられる。
現在までのところ、機械的刺激による心筋細胞肥大形成機序は不明である。しかし、機械的刺激でプロテインキナーゼC(PKC)やMAPキナーゼファミリーであるERK、JNK/P38MAPKが活性化し、心筋細胞内に特異的な遺伝子発現や肥大形成の一端を担っており、さらに肥大形成の惹起にアンジオテンシンⅡやエンドセリンなど血管作動物質の分泌亢進なども関与しているとの報告がある。また内皮細胞では、伸展刺激により増殖が刺激され、さらに細胞が細長くなり、その長軸を伸展刺激の方向に直角に向けて配列するようになることが知られている。またウシの内皮細胞に伸展刺激を加えると、配列の変化だけでなくアクチンフィラメントの束であるstress fiberが出現したとの報告がある。平滑筋細胞でも、伸展刺激の方向に直角に向けて配列するようになることが認められている。