Shenらは、カルシウムが心筋障害を受けたミトコンドリアに集積することを見出した。これをもとに、1974年Bonteらはカルシウムに親和性をもつ99mTcリン酸化合物により急性心筋梗塞を陽性描出できることを、動物実験および臨床応用で証明した。
99mTc-ピロリン酸(PYP)は、骨シンチグラム用イメージング製剤として現在汎用されている放射性薬剤である。99mTc-PYPの梗塞巣への心筋集積は局所血流、Caの沈着および組織損傷に影響されるとされている。障害心筋への血流が正常心筋の20~30%の時点で心筋への集積が最大となり、さらに局所血流が5%以下に低下するとほとんど集積しないとされている。リン酸化合物はCaと結合し、ミトコンドリア内でヒドロキシアパタイトを形成する。そのため、99mTc-PYPの組織内分布とカルシウム分布が一致することがわかっている(図)。一方、99mTc-PYPは組織損傷部位に集積するが、再灌流を行った実験では、心筋壊死巣のみならず虚血組織の周囲にも集積が増加する。このことから、局所血流の影響は無視しえないと考えられる。実験的心筋梗塞への99mTc-PYP集積の経時的検討によると、投与10~12時間目ごろより梗塞巣が陽性像として描出され始め、2~3日以内で最強となり、以後1週間まで集積が徐々に減少していくことが確かめられている。したがって、99mTc-PYPの梗塞巣の陽性描出には、①不可逆的な心筋変性があること、②この組織内に周辺部からの血流供給があること、および③梗塞が発症してからのイメージングの時期、を考慮することが必要となる。