内因性ジギタリス様物質〈endogenous digitalis-like factor;EDLF(=endogenous digitalis-like substrate;DLS)〉

植物由来の強心配糖体であるジギタリスが、Na+-K+ ATPaseに結合し、その機能を抑制することにより作用を発揮することはよく知られている(図A)。ジギタリスのNa+-K+ ATPaseへの結合はhigh-affinity、low-capacityという薬理学的な意味でのレセプターの条件を満たすことから、Na+-K+ ATPaseはジギタリスの受容体とも考えられている。植物由来のモルフィンに対する受容体に結合する内因性モルフィンとしてオピオイドペプチドが発見されたように、動物の体内にジギタリスに対する受容体があるということは、この受容体に結合するauthenticな内因性リガンドが存在する可能性を示唆している(図B)。

内因性ジギタリス様物質

ここで、内因性ジギタリス様物質の歴史的展開をたどると、1961年de Wardenerらが、麻酔イヌにバゾプレッシンや9α-フルオロコルチゾールを投与したうえで大量の食塩水を投与すると、著明なNa利尿が生じること、さらに交叉循環実験で前述条件下のNa利尿は血液中のホルモン様物質によって起こることを指摘した。1976年Clarksonらは健常人の尿中にNa利尿因子が存在すること、この因子にはMW30,000以上のものとMW3,000以下の小分子量のものが存在し、さらに食塩摂取量を増加させると尿中へのNa利尿因子排泄量が増加することを示した。1976年Millyardらにより、実際に高血圧患者や高血圧実験モデル動物の血中および尿中にNa+-K+ ATPaseを抑制する活性が存在することが明らかとなった。さらに1980年Gruberらにより、初めて高血圧動物の血中に抗ジゴキシン抗体と交叉する物質が存在することが示された。この時点で、内因性Na+-K+ ATPaseインヒビター、Na利尿物質、未知の昇圧物質、ジゴキシン様免疫活性物質を満たすものが内因性ジギタリス様物質の概念となり、多くの研究者により研究が進められ、1980年代半ばにはウアバイン(ouabain)ほか数多くの報告がみられ、同定精製まで到達するかに思われた。しかし、現在までのところ万人を納得させるに至る内因性ジギタリス様物質は発見されていない。