ゲノム編集

ゲノム編集は、ゲノムDNAの特定の領域を自由に書き換えることを可能とする技術である。ゲノムDNAへの特異的な結合と、DNAを切断するヌクレアーゼ活性を組み合わせた技術として、ZFN(zinc finger nuclease)やTALEN(transcription activator-like effector nuclease)が開発されてきた。

2012年に報告されたCRISPR/Cas9(clustered regularly interspaced short palindromic repeat/CRISPR-associated endonuclease 9)は、溶血性連鎖球菌の獲得免疫機構として発見され、Cas9蛋白質がガイドRNAと呼ばれるRNA分子と複合体を形成し、対象DNAに特異的に結合した後に切断する。20塩基の配列を改変することで、ほぼ自由にターゲットを設定できるため、さまざまな生物種のゲノム改変に応用され、革新的技術として医療を含む多くの分野で研究、開発が進められている。

Cas9複合体により切断されたゲノムDNAは、非相同末端結合または相同組換え修復により修復される。非相同末端結合は欠失や挿入を生じるため主に遺伝子機能の破壊に、相同組換え修復は修復テンプレートDNAを用いたターゲット遺伝子の改変に利用され、これらの分子機構をヒト疾患治療に応用する試みが行われている。

2021年には、遺伝性トランスサイレチンアミロイドーシスの症例に対し、トランスサイレチン遺伝子をターゲットとするガイドRNAと、Cas9蛋白質をmRNAとして組み合わせて投与する臨床試験が行われ、ゲノム編集治療が血清トランスサイレチン濃度を低下させることが報告された。

CRISPR/Cas9を利用した多くの研究開発が行われ、DNAの切断を経ずに遺伝子配列を入れ替える一塩基編集や、ヌクレアーゼの代わりに転写因子をつなげることによる目的遺伝子の活性化など、幅広い技術へ応用されている。