遺伝性心血管疾患

疾患の発症または重症化する要因は、一般に遺伝要因と環境要因の2つに分けられる。遺伝性心血管疾患という名称は、心臓疾患、血管疾患を含む循環器領域の疾患において、遺伝要因による影響が大きいと考えられる疾患に対する総称である。

従来の遺伝学的検査に加えゲノム解析技術の進歩に伴い注)、一塩基バリアント(single nucleotide variant;SNV)、コピー数多型(copy number variant;CNV)、構造多型(structural variant;SV)、染色体異常など多種多様な遺伝要因が明らかとなってきた。各々の出現頻度やゲノム変化の結果が生物学的変化により疾患発症に与える影響寄与度(effect size)により、疾患発症または重症化に対する影響が異なるが、それらの出現頻度や疾患発症寄与度にはかかわらず、さらに関与する遺伝要因の個数(単一遺伝子疾患、複数遺伝子変化の複合、多因子疾患)にもよらず、何らかの関与があれば遺伝性心血管疾患として該当する。

遺伝要因の影響があると考えられる疾患は、具体的には、拡張型心筋症、肥大型心筋症、拘束型心筋症、不整脈原(源)性心筋症など従来特発性心筋症と呼ばれるものや、Fabry病、家族性アミロイドーシス、自己貪食空胞性ミオパチー(=ダノン病)のような蓄積性心筋症、筋ジストロフィー、ミトコンドリア病、Noonan症候群などのRas/MAPK症候群(RASopathy)のように多系統疾患といわれるもの、先天性QT延長症候群やブルガダ症候群のような主としてイオンチャネル遺伝子が原因となるもの、Marfan症候群に代表される結合組織病や遺伝性大動脈瘤などの大血管疾患、先天性心疾患、そして広義には肺動脈性肺高血圧症、家族性高コレステロール血症、遺伝性血栓性素因なども含まれる。また周産期心筋症、薬剤性心筋症、アルコール性心筋症、心筋炎の一部など、環境要因を主としながらも遺伝要因が疾患発症の原因に含まれるとの報告も増えている。さらに、高血圧や心房細動をはじめとする多因子疾患も遺伝要因が同定されており、これらも遺伝性心血管疾患であると考えることができる。


注)次世代シーケンシング
キャピラリーシーケンスの原理を用いたサンガー法にかわる新世代のシーケンスとの意味で名づけられ、新技術による改良発展を繰り返し10年以上経過するが、わかりやすいネーミングから今もこの呼称が用いられる。ゲノム解析は、数種類の遺伝子などに限ったパネル解析から、全エクソーム解析、全ゲノム解析に至るまで対応し、解析対象となる領域や用途により、ライブラリー・シーケンス・情報解析の種類を選ぶ。他にもトランスクリプトーム、エピゲノムなど、塩基配列を決定するオミックス解析では用いる機器は共通である。複数個体に対し、同時・高速・高精度な配列決定処理が可能であるため、癌ゲノム診断や難病・遺伝性疾患など臨床現場でも用いられるようになっている。