移植後冠動脈血管症〈coronary allograft vasculopathy;CAV〉

心臓移植後に発生する拒絶反応の結果、心外膜冠動脈から心筋内動脈に至るびまん性の内膜肥厚をきたす疾患で、心臓移植後慢性期における主要な死因である。CAVの特徴的な病理学的所見として冠動脈内膜へのリンパ球の浸潤が認められる。CAVにより引き起こされた冠動脈内膜肥厚による狭窄の結果、移植心の虚血をきたす。虚血が生じた場合に通常は狭心痛を認めるが、移植心では除神経されているため狭心症の症状を呈さない。そのため、CAVの評価には経年的な冠動脈造影検査が推奨される。

CAVの発症には、移植手術時の心筋虚血と再灌流障害、急性拒絶反応、粥状動脈硬化症の危険因子(高血圧症・脂質異常症・耐糖能異常)、サイトメガロウイルス感染などが関与することが知られている。

CAVに対する薬物療法として抗血小板薬とスタチンが使用される。また、免疫抑制薬のうちmTOR阻害薬(エベロリムス)はCAV進展を抑制する効果がランダム化比較試験で示されている。mTOR阻害薬は細胞質内のFKBP12と複合体を形成し、その複合体がmTORに結合しキナーゼ活性が抑制されることにより、血管平滑筋細胞などで細胞周期をG1期で停止させS期への進行を妨げることで、CAVにおいて冠動脈内膜の増殖を抑制する。これら薬物療法にもかかわらず冠動脈に高度狭窄をきたした場合に行われるカテーテル治療やバイパス術では再発率が高く、現状再移植のみが確立した治療である。ドナー不足の問題もあり再移植は現実的ではなく、CAVの発症機序の解明が求められる。