たこつぼ心筋症

たこつぼ心筋症は、急性心筋梗塞と類似した胸部症状(胸部圧迫感、不快感、息苦しさ、吐き気)、心電図変化(広範囲な誘導におけるST上昇)を有し、左室心基部の過収縮と左室心尖部を中心とする広範囲な壁運動の可逆的収縮低下を示す病態に付けられた名称である。本病態は、60歳以上の女性に多い、心電図でのST上昇後の巨大陰性T波の出現、心筋逸脱酵素のわずかな上昇、冠動脈の有意狭窄の欠如、壁運動低下の速やかな(発症数日から数週間後)改善などの特徴がある。わが国で報告が多いが、欧米では少ない。成因には多枝冠動脈攣縮による気絶心筋、カテコラミンによる心筋障害、心筋炎、情動ストレスなどが考えられているが、いまだ明らかではない。一般に予後は良好で、心室収縮は心基部より回復し、心尖部が遅れる。しかしながら、まれに心原性ショック、うっ血性心不全、心破裂、房室ブロックなどを合併する例が報告されており、全例が可逆的でないので、注意が必要である。

左室造影による心基部の過収縮と心尖部を中心とする広範囲な壁運動の可逆的収縮低下所見