循環器用語ハンドブック
再生治療〈regeneration therapy〉
「再生治療(regeneration therapy)」とは、機能が著しく損なわれた組織を幹細胞(stem cell)あるいは幹細胞由来組織(stem cell-derived tissue)などを用いて修復を行う治療である。循環器領域でも、ポンプ機能が著明に低下した重症心不全などに対して、種々の細胞ソースから得られた心筋細胞や組織を用いて収縮力を補う研究が進められ、一部では臨床応用も行われている。
組織再生の方法としては、①体外から幹細胞あるいは幹細胞由来組織を「移植」する方法、②もともと体内に内在している細胞を「動員」する方法が研究されている。②に関しては、標的組織に存在している幹細胞を組織内で分化させる方法と、組織外から循環・遊走させる方法がある。
心筋再生治療に用いられる細胞ソースについては、大きな分類としては、①成人の体組織から採取あるいは樹立される「組織幹細胞(tissue stem cell)」、②受精卵(胚)から樹立される「胚性幹細胞(embryonic stem cell;ES細胞)」の2つに分けられる。さらに①は「体性幹細胞(somatic stem cell)」と「生殖幹細胞(germline stem cell)」に分類され、再生治療領域で主に用いられているのは前者である。「体性幹細胞」には、骨格筋芽細胞(skeletal myoblast)、間葉系幹細胞(mesenchymal stem cell)、人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cell;iPS細胞)などが含まれ、これらの細胞種は「自家移植(autograft)」が可能であるため、拒絶反応や倫理的な問題が少なく、臨床応用可能な細胞ソースとしての期待が集まっている。一方、②のES細胞については以前から多くの研究が行われているが、生命倫理の問題があり、臨床応用は米国で限定的に行われるにとどまっている。
上記「体性幹細胞」の細胞ソースのうち、骨格筋芽細胞や間葉系幹細胞については、すでに臨床応用がなされている。骨格筋芽細胞については、シート上に重層して培養して移植する方法をとることにより、心機能の改善がみられたとの報告があり、重症心不全に対する治療法として用いられている。一方、間葉系幹細胞についても、心臓間質に存在する心臓幹細胞を用いた大規模臨床試験(CADUCEUS試験やSCIPIO試験)が米国を中心に行われている。
一方、多能性幹細胞である「iPS細胞」については、①心筋に効率的に分化誘導することができる、②その機能特性も生体の心筋細胞に匹敵することが知られている、③生命倫理上の問題が少ない、などの理由から心筋生治療の有望な細胞ソースとして大きな関心を集めており、現在、iPS細胞を用いた重症心不全に対する心筋再生治療に向けた取り組みがスタートしている。iPS細胞由来組織は自家移植が可能であるが、あらかじめ拒絶反応を起こしにくいHLAタイプのドナーから樹立されたiPS細胞株をストックする「iPSバンク構想」も進められている。

