循環器用語ハンドブック

HCNチャネル阻害薬(Ifチャネル阻害薬)

正常心臓の心拍数は、心臓内の洞結節と呼ばれる部位の自発興奮が自律神経(交感神経、副交感神経)によって修飾されることで決定される。洞結節の心筋細胞は自発興奮機能(自動能)をもつため、他からの刺激なしに活動電位を規則正しく発生させることができる。この洞結節の自動能形成に寄与する電流は過分極活性化陽イオン電流(If)と呼ばれており、活動電位の再分極が終了した後の電気的拡張期(第4相)に働く電位依存性のイオンチャネルであるHCN4チャネル(ペースメーカーチャネル)により形成される。家族性洞不全症候群はまれな疾患であるが、HCN4は原因遺伝子の1つとして知られている。

HCNチャネル阻害薬は、HCNチャネル(主にHCN4チャネル)を阻害することでIfを抑制し、拡張期脱分極相における活動電位の立ち上がりを遅らせることで心拍数を減少させる薬剤である。慢性心不全の治療では心拍数を抑える交感神経β受容体遮断薬(β遮断薬)などが使われているが、HCNチャネル阻害薬はこれらの薬剤を使っていても心拍数が一定の治療目標まで低下しない病態への有用性が考えられ、心収縮能には一切影響を与えないという特徴がある。HCNチャネル阻害薬であるイバブラジンの洞調律のHFrEF患者(左室駆出率が35%以下)を対象としたSHIFT試験によって、心拍数を低下させること自体が治療目標になることが証明された。わが国ではJ-SHIFT試験の結果からイバブラジンが認可されたが、本邦における適応は「洞調律かつ投与開始時の安静時心拍数が75回/分以上の慢性心不全。ただし、β遮断薬を含む慢性心不全の標準的な治療を受けている患者に限る」とされている。今までにHFpEF患者を対象にイバブラジンを投与して長期の死亡や心不全入院を観察した大規模臨床試験はなく、現時点ではイバブラジンの適応はHFrEF患者に限るべきであると考えられる。

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