循環器用語ハンドブック
アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬〈ARNI〉
アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)サクビトリルバルサルタンはネプリライシン阻害薬サクビトリルとアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)バルサルタンの合剤であり、慢性心不全と高血圧症の適応を有する薬剤である。ネプリライシンは膜結合型エンドペプチダーゼであり、ナトリウム利尿ペプチド(ANP、BNP、CNP)、アンジオテンシンⅡ、ブラジキニン、アドレノメデュリン、サブスタンスP、エンドセリンなどの分解に関与するため、ARNIはナトリウム利尿ペプチドの作用増強とアンジオテンシンⅡ受容体の阻害作用によって降圧効果および心保護効果を示す。アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬と併用するとブラジキニンの増強により血管浮腫を生じうるため併用は禁忌である。ネプリライシンはアミロイドβペプチドの分解にも関与するため、ARNIはAlzheimer病の発症や進行に影響する可能性が懸念されるが、PERSPECTIVE試験における3年間の追跡では認知障害のリスクを高める結果は認められていない。
左室駆出率(EF)の低下した心不全(HFrEF)を対象としたPARADIGM-HF試験とEFの保たれた心不全を対象としたPARAGON-HF試験により、EFが57%以下の症例でACE阻害薬またはARBよりも心血管死と心不全入院を抑制することが示されている。日本人のHFrEFを対象にしたPARALELL-HF試験では、ACE阻害薬に比べ心血管死および心不全入院の抑制効果は示されなかったが、副次評価項目のNT-proBNP値の有意な低下を認めている。一方、NYHA心機能分類Ⅳ度の重症心不全患者を対象にしたLIFE試験ではNT-proBNP値の変化を含めた有用性は示されていない。有症状の慢性心不全患者ではACE阻害薬/ARBからの切り替えを考慮すべきであるが、EFや重症度により有効性が異なりうることには注意を要する。

