BNPは1988年に、日本でANP(心房性ナトリウム利尿ペプチド)に次いでブタの脳から単離同定されたナトリウム利尿ペプチドファミリー第2のペプチドである。ヒトでは主に心室、一部は心房の心筋から分泌される心臓ホルモンであり、特徴的な環状構造をもつ。正常心臓においてはANPが主として心房で合成され、心房から冠静脈洞を介して大循環中に分泌されるのに対して、BNPは主として心室にて合成され、大室間静脈から大冠静脈、冠静脈洞を介して分泌され、心臓での合成されている割合から推定すると、ANPは正常ではその97%が心房由来、BNPはそのおよそ80%が心室由来である。BNPのホルモンとしての生理作用は、ナトリウム利尿作用、血管拡張作用などであり、機能的にレニン-アンジオテンシン-アルドステロン系と拮抗し、心筋保護に働く。また、基礎医学の分野においては、BNPは心筋負荷時に発現が亢進するα-skeletal action、β-myosin heavy chainなどとともに心筋胎児型遺伝子と呼ばれ、その遺伝子発現調節機構の解明が心筋細胞肥大、心不全の分子メカニズム解明に結びつく可能性があると考えられている。一方、臨床上は、BNPは心機能の低下に敏感に反応して上昇し、心不全の重症化とともに急上昇する。特に心不全においては、血行動態上、左室拡張末期圧と最も相関が強いが、ノルエピネフリン、エンドセリンなどの影響によりさらに上昇する。左室拡張末期圧が高くても、心室の拡張が不良な病態ではその増加は軽度のことがある。このため、わが国では心不全の診断と重症度評価に用いられている。特に慢性心不全患者に対するBNPガイド下治療は、退院時期の決定、β遮断薬導入時などにおいて有用であり、今日では心不全の診断・治療の補助手段としてなくてはならない検査になっている。