大動脈弁閉鎖不全[症]〈aortic insufficiency〉

大動脈弁閉鎖不全症は、大動脈弁の接合不全により駆出された血液が拡張期に大動脈から左心室に逆流し、左室の容量負荷をきたす疾患である。進行の程度から慢性のものと急性のものに分類される。弁自体の器質的変化や大動脈根部(弁輪部)の異常、またはその両者が原因となる。急性のものでは、大動脈解離など大動脈疾患に起因するものが多い。慢性の経過をたどるものには、梅毒やリウマチ熱などの慢性炎症に起因するもの、Marfan症候群やEhlers-Danlos病など結合織異常に基づくものがある。一般的に慢性の経過をたどるものは容量負荷の代償として左室が遠心性肥大を呈するため、長期間無症状であることが多い。

自覚症状の出現は、多くは40歳以降に左心不全徴候として現れる。症状の出現からは経過が早く、また不可逆的であるために速やかな治療が必要となる。一方、急性発症のものはこの代償機転がないため、急激な左室拡張末期圧の上昇と一回前方心拍出量が低下し、急性心不全を呈する。この場合には外科的な治療も早期に考慮する必要がある。

身体所見上特徴的なのは、大きな脈圧(Corrigan pulse)である。これは1回拍出量の増加による収縮期圧の上昇と末梢血管拡張などによる拡張期圧の低下が原因であり、この現象により上下肢の血圧差は大きくなる(Hill's sign)。重症例では脈圧/収縮期圧が0.7以上となり、これは逆流の程度と相関するとされている。聴診所見では第2肋間の傍胸骨部にて聴取される拡張期雑音が重要であり、雑音の大きさは重症度にほぼ比例する。また、拡張期に認められる高調音以外に心尖部で低調音(Austin Flint雑音)を聴取することがあるが、これは逆流した血流によって惹起された相対的僧帽弁狭窄によるものである。胸部レントゲン写真では、左室負荷から第4弓の拡大を認める。大動脈疾患に伴うものでは、上行大動脈の拡大をみることがある。心電図では左室高電位の所見が認められ、重症化に伴い前胸部誘導にてストレイン型のST-T変化がみられる。心房細動の合併は少なく洞調律が多い。心臓超音波検査では、弁の性状からその病因を推測することが可能であり、ドプラ法を用いれば逆流を証明しうる。心臓カテーテル検査では、弁上からの造影により左心室内への逆流が観察され、逆流量を半定量化できる(大動脈弁のSellers逆流度分類、図)。また、左心室内へカテーテルを挿入して左室拡張末期圧の測定や左心室造影を行うことにより、左心室機能を評価できる。

Sellers逆流度分類(大動脈弁)

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