循環器用語ハンドブック
ホルモン補充療法〈hormone replacement therapy;HRT〉
ホルモン補充療法(HRT)は、元来生体内に存在する生理活性物質を投与することで、その生理機能を介して病態の改善・予防を試みる治療法を指す。循環器疾患における主要なHRTとしては、冠動脈疾患一次予防を目的とした性ホルモン投与が挙げられる。
女性ホルモン(エストロゲン)を用いることによる冠動脈疾患予防効果は、多くの観察試験で報告され、脂質代謝改善作用(LDLコレステロールの低下、HDLコレステロールの上昇)、抗動脈硬化作用がその改善作用機序とされている。このことから、女性ホルモンによる冠動脈疾患予防効果を証明する目的で多くの臨床試験が行われたが、HERS試験(Heart and Estrogen/progestin Replacement Study)、RUTH試験(Raloxifene Use for The Heart)ではその効果は否定された。閉経後女性の疾患予防を総合的に評価することを目的として行われたWHI試験(Women's Health Initiative、16,608人をエストロゲン+メドロキシプロゲステロン合剤またはプラセボに割り付け)は、治療薬投与群において乳癌発症率の有意な増加を認めたため急遽中止され、さらに心虚血イベント、脳卒中、肺塞栓症の合併頻度の増加が報告された。機序の1つとしてエストロゲンによる凝固抑制系蛋白質の低下作用が考えられ、これらの結果から、現在の日本循環器学会『循環器領域における性差医療に関するガイドライン』(2010年)では、経口女性HRTは冠動脈疾患リスクを上昇させる可能性からクラスⅢとされている。しかし、その後投与する薬剤の組み合わせによっては必ずしも心虚血イベントに影響しないこと、エストロゲンの経皮投与では心筋梗塞リスクが減少することが報告されている。
一方、男性ホルモン(テストステロン)の低下が虚血性心疾患発症に関与するという疫学研究結果から、男性ホルモン投与による冠動脈疾患予防効果が期待されているが、現時点では明確なエビデンスは存在しない。
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