循環器用語ハンドブック
PCSK9
PCSK9(proprotein convertase subtilisin/kexin type 9)は、2003年にカナダのSeidahらによって発見された、主に肝臓で産生される分泌蛋白である1)。PCSK9は血中に分泌され、LDL受容体(low density lipoprotein-receptor;LDLR)と複合体を形成することでLDLRの翻訳後調節に関与する2)-4)。PCSK9の機能獲得型遺伝子多型保因者では、LDLR/LDLが細胞内に取り込まれた後、LDLRのライソゾームでの分解が促進され高LDL-C血症となる5)。このためPCSK9は、LDLR、APOBに次いで3番目の家族性高コレステロール血症の原因遺伝子として報告されており6)、わが国の家族性高コレステロール血症の原因遺伝子では、PCSK9はLDLRに次いで多い7)8)。
一方、機能喪失型遺伝子多型保因者ではLDLR/LDLが細胞内に取り込まれた後、LDLRが分解されずリサイクルされることから血中からLDLがどんどん肝臓に取り込まれて低LDL-C血症となり、心血管イベントが大きく抑制される9)。この点が高LDL-C血症に対する治療標的として評価され、PCSK9阻害薬が開発された。抗体医薬としては、完全ヒト型モノクローナル抗体として、エボロクマブ、アリロクマブが開発された。抗PCSK9抗体医薬は、スタチン投与下でLDL-Cをさらに60%程度低下させる10)。現在本邦では、エボロクマブが、心血管イベントの発現リスクが高い家族性高コレステロール血症やLDL-C低下が不十分なハイリスクの二次予防患者、スタチン不耐患者に対して良い適応があると考えられている11)。また抗体医薬とは異なるメカニズムの阻害薬として、低分子干渉RNA(siRNA)治療薬inclisiranが開発され12)、すでに米国で承認されており、本邦でも治験が進められている。なお、家族性高コレステロール血症ホモ接合体型でLDLRが欠損するタイプでは、PCSK9阻害薬の効果は限定的であることに注意が必要である13)。
- ●文献
- 1) Seidah NG, et al. Proc Natl Acad Sci U S A 100 : 928-933, 2003
- 2) Maxwell KN, et al. Proc Natl Acad Sci U S A 101 : 7100-7105, 2004
- 3) Benjannet S, et al. J Biol Chem 279 : 48865-48875, 2004
- 4) Park SW, et al. J Biol Chem 279 : 50630-50638, 2004
- 5) Lambert G, et al. J Lipid Res 53 : 2515-2524, 2012
- 6) Abifadel M, et al. Nat Genet 34 : 154-156, 2003
- 7) Mabuchi H, et al. Atherosclerosis 236 : 54-61, 2014
- 8) Ohta N, et al. J Clin Lipidol 10 : 547-555, 2016
- 9) Cohen JC, et al. N Engl J Med 354 : 1264-1272, 2006
- 10) Sabatine MS, et al. N Engl J Med 376 : 1713-1722, 2017
- 11) 日本動脈硬化学会 PCSK9阻害薬適正使用声明文作成WG. PCSK9 阻害薬の継続使用に関する指針 https://www.j-athero.org/jp/wpcontent/uploads/outline/pdf/pcsk9_keizoku_shishin.pdf
- 12) Ray KK, et al. N Engl J Med 382 : 1507-1519, 2020
- 13) Santos RD, et al. J Am Coll Cardiol 75 : 565-574, 2020

