心不全による入院の要因は、単に水分・塩分の過剰摂取が原因ということに留まらず、心房細動や虚血性心疾患、弁膜症に代表されるポンプ機能に障害を及ぼす疾患の存在、服薬の不徹底、過活動や感染症など多様性を有することが特徴です。原因となる増悪要因が、治療可能な疾病である場合は、治療によりコントロールできますが、服薬の不徹底や水分・塩分の過剰摂取などの場合は、日常生活におけるセルフケアが再発予防の鍵となります。増悪要因を回避するためのセルフケアを意識することなく退院を迎えてしまうと、増悪による再入院を招くと共に、入院を繰り返し身体機能が低下する悪循環となる点が心不全の怖い所です。
心不全患者に対峙した際には、増悪要因に注目すると共に患者さんの理解力やニーズ、生活環境に応じたセルフケアの動機づけを支援することが重要です。また、入院という環境は「非日常」であることから、退院後の日常生活においてセルフケアを実践するための支援を継続していくことが要となります。
当院薬剤師の心不全患者への関わり方について、過去を振り返りながら紹介します。10年前は、一般的な入院患者に対峙する際と同様に、持参薬鑑別と初回面談を行うことから始め、入院中盤で現在の薬物治療について説明した後、退院指導として理解の確認とお薬手帳へ薬歴を記載するという流れでした。いわゆる「病院完結型」の薬剤師業務です。その後、心不全患者の高齢化や再入院の増加を意識するようになると、8年前には患者さん個別の増悪要因に注目すべきであるという風土ができ、薬剤師としては服薬に対する意欲や認知能力を評価する取り組みをはじめました。他職種も同様で、理学療法士が身体機能を、管理栄養士が栄養の充足度を評価し多職種で共有するという「多職種協働」の形に発展します。こうした多職種協働のチーム医療に取り組むこと数年、5年前には療養指導とは医療者が患者さんに指導して行わせることを本質とするのではなく、「患者さん自らが可能だと考えること」を目標として掲げて実践していく過程を支援することであるという認識に変化していきました。こうした取り組みは、入院中に患者さんが理解したということだけで終わらず、退院後の実践を見守り、継続的な支援をしていく体制こそが重要であるということにも気づかされました。これは、「病院完結型の薬剤師業務の終焉」ともいえます。
こうした変化の後、私たちは今、保険薬局をセルフケア支援の砦と考え、薬薬連携を実践しています。薬剤師による療養指導の実践とは、入院時に「過去」を紐解き、入院中に多職種による「今」を改善するための支援を行うと共に、退院後という未来に向けた準備を支え、日常生活という実際の未来へ繋ぐ「線」で紡がれた活動であると思っています(図1)。
薬剤師が行うケア移行とは何でしょうか?この問いに私は「情報を繋ぐこと」と答えたいと思います。前項では過去10年の療養指導の変遷をお話しましたが、最新形態である現在の形でなければケア移行が実践できない訳ではありません。ケア移行とは、いかなる段階にも存在するものであり、皆さんの現状に則した方法が存在します。
「病院完結型」と呼称したスタンダードな関わり方の段階にある場合には、既に普及しているお薬手帳を活用し、薬歴と共に増悪要因や家庭血圧・体重測定を継続することがセルフケアの重要なポイントであることを完結に記すだけでもケア移行の実践といえます。こうした身近な連携を進めていくと、保険薬局を少し身近に感じることができるようになります。
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