薬剤師向け

第4回 高齢者のポリファーマシー対策とアドヒアランス改善のポイント

監修:東京大学大学院医学系研究科 老年病学 教授 秋下 雅弘 先生

高齢人口の急速な増加を背景に、高齢者に対する薬物療法の需要はますます高まっています。

高齢者の薬物療法の課題であるポリファーマシー対策とアドヒアランス改善のポイントについて、
東京大学大学院医学系研究科 老年病学 教授 秋下 雅弘 先生にご解説いただきました。

人口の高齢化が背景にあるなかで、特に注目されているのはどのような疾患でしょうか。

要介護の前段階としてのフレイルと認知症はもっとも注目されるべき疾患であると思います。

フレイル、認知症は、心血管イベントのハイリスク群でもあることが分かっています。 ただ、ハイリスク群であるからといって厳格な介入を行うべきか対応の難しさがあります。有害事象のリスクを評価した上で、介入を行うべきか行わないかを考えなければなりません。

循環器疾患として注目すべきはやはり心房細動と心不全です。特に心不全は入院して治療する間に認知機能や筋力が低下し、一度改善しても再発することも多く、これを繰り返しながら徐々に機能が落ちていきます。 その都度費やされる急性期医療費、本人や家族の負担も大きく、そこにどう対応するかもきわめて大きな課題であると思います。

高齢者の薬物療法の課題を教えてください。

高齢者では、安全で適正な薬物療法、ポリファーマシーやアドヒアランスを考慮した服薬指導を考えていただく必要があります。

ポリファーマシーの概念に関して、厚生労働省から「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」で次のように示されています。 ポリファーマシーとは、単純な多剤服用ではなくて、多剤服用に加えて何かそこに問題を抱えている状態であるとしています。

例えば重複がある、相互作用のリスクが高い薬剤が処方されている、きちんと飲めない、というような状態であり、多剤服用とポリファーマシーを異なる意味で定義しています(図1)1)

高齢者のポリファーマシー対策として、処方適正化のために確認するポイントを教えてください。

患者さん一人一人の背景をしっかりとらえるという姿勢が重要です。

例えば循環器疾患患者では循環器疾患だけに目を向けたのでは十分ではありません。 心房細動のレートコントロールでβ遮断薬を用いている患者さんがCOPDでβ刺激薬を内服・吸入していることはないだろうか、 β3刺激薬が過活動膀胱治療に用いられているが、これをβ遮断薬と一緒に使うことに問題はないのか、 アスピリンとNSAIDsの併用で有害事象を作りやすい状態になってはいないだろうか、多剤からなる治療薬に不整合はないだろうか、といった多疾患に対する処方に目配りをしていただきたいと思います。

特に複数の医療機関を受診している場合は注意を払う必要があります。

ポリファーマシー対策の取り組みを進めるツールとして、「病院における高齢者のポリファーマシー対策の始め方と進め方」が厚生労働省から発出されています2)。 医師、薬剤師の他、広くポリファーマシー対策にかかわる多職種の医療関係者を利用対象として想定しています。 病院向けではありますが、診療所や地域等においても活用いただける内容となっています。

高齢者への服薬指導やアドヒアランス改善のための介入のポイントを教えてください。

服薬指導の際は、ただ単にきちんと飲んでくださいと言うだけの指導ではなくて、認知機能の低下あるいは嚥下機能の低下があって飲みにくいといった、患者背景を踏まえる必要があります。

高齢者のための処方の工夫と服薬支援の主な例も参考にしてどうすればこの患者さんは薬剤を飲みやすくなるのか、ということを考えて介入いただきたいです(表)1)

薬剤を飲むタイミングを朝1回あるいは夜1回にすべて揃えるなどの対策を講じることや、嚥下機能が低下している患者さんにはOD錠や貼付剤などの剤形の工夫を行うことができます。

また、処方の工夫はアドヒアランスの低下、様々な薬物有害事象の発現、療養環境の変化といったタイミングが重要な契機となるように思います(図2)1)

本当に飲んでいるかどうかを確認しながら、優先順位を検討しつつ、なるべくシンプルな処方に変えていくことが大切だと思います。

薬剤師へ期待されていることを教えてください。

循環器疾患は高血圧や糖尿病などの生活習慣病が集積した場合も多く、どうしても多剤服用、そして相互作用や有害事象、アドヒアランス不良などの問題を抱えたポリファーマシーになりがちです。 その問題に気付けるのは、文字だけを見ながら処方する医師よりも、実際に調剤した薬剤を挟んで患者さんと向き合う薬剤師の方ではないでしょうか。

そこで最も大切なのが、気付いたことを行動に移せるかどうかです。 循環器疾患は命に係わるし、大抵の循環器内科医はとても忙しくまたせかせかしており、薬剤師から処方変更を提案することには高いハードルがあるでしょう。 しかし、勇気をもって声をかけていただきたいと思います。

処方提案は疑義照会とは違うので、後で読めるメモやメールでもよいのです。 その際に、まずは剤型や服薬のタイミングに関する提案から入ると、薬剤師の専門領域ですし、医師も受け入れやすいと思います。

最初の一歩を踏み出して徐々に関係を構築していくことをお勧めします。

  • 1)厚生労働省:高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編).2018年5月.
  • 2)厚生労働省:病院における高齢者のポリファーマシー対策の始め方と進め方.2021年3月.
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