薬剤師向け
第2回 心房細動診療の課題
心房細動は、高齢人口の増加に伴って顕著に増加しており、common disease といえます。
心房細動診療において、高齢者への対応は一つの課題です。
この課題の考え方について、公益財団法人 心臓血管研究所 所長 山下 武志 先生にご解説いただきました。
心房細動を取り巻く環境はどのように変化してきましたか?
心房細動の診療には、大きく分けて「心房細動そのものに対する治療」と「脳梗塞予防」という「2つの軸」が存在します。 これらの手段の一つとなるカテーテルアブレーションや抗凝固療法はここ10年の間に普及し、心房細動の診療は大きく飛躍してきました。
心房細動の有病率は高齢になるほど増加していますが1)(図1)、「2つの軸」となる治療は、患者さんが高齢になるほど困難を伴いやすくなります。
心不全や脳梗塞などの合併症リスクも高まるという実状に反して、目覚ましい進歩を遂げた「2つの軸」となる治療をそのまま導入しにくいという患者さんが増えてくるのです。 高齢化社会の日本において、大きなジレンマが生じています。
心房細動は予後にどう影響しているのでしょうか?
心房細動は脳卒中のリスク因子である、というイメージが強いかもしれませんが、これは全体像のごく一部を見ているにすぎません。
Fushimi-AFレジストリ2 )は、抗凝固療法施行率が約50%と低く3 )、カテーテルアブレーション施行例は約3%4 )であり、
抗凝固療法やカテーテルアブレーションの恩恵を十分には受けていない患者群の経過を表した研究です。
死因の内訳をみてみると、全体で705例の死亡に対して、心血管死は180例(25.5%)と約1/4を占めるにすぎません。
そのなかで比較的多い死因が心不全で102例(14.5%)、脳梗塞は34例(4.8%)にすぎませんでした。一方で、非心血管死の占める割合が非常に高く、381例(54.0%)にも及んでいます。
心房細動患者の死因は多岐にわたっており、脳卒中予防と心房細動自身に対する治療は全体像のごく一部でしかないということを表したものでしょう。
つまり、高齢化社会における心房細動診療においては、複数のエンドポイントが競合するなかで「全死亡」(様々な原因による死亡)を考えることが大事になります。
何が死亡に影響しているのでしょうか?
入院した高齢の心房細動患者が退院後どのくらいの割合で死亡するかを検討したデータをみると、全体でほぼ2割の人が半年以内に亡くなっています。
死亡する人と死亡しない人の違いは何かといえば、それはフレイルの有無が大きい役割を演じているといってよいと思います。 生命予後規定因子としてフレイルが最大の規定因子であり、脳梗塞リスクスコア(CHA2DS2-VASc)や出血リスク(HAS-BLED)は生命予後を規定していませんでした5 )。
このようなことから、高齢の心房細動患者では「フレイルであるか」「フレイルでないか」をまず考えるようにしています。 フレイルは、身体的フレイル、精神的フレイル、社会的フレイルという3つの側面をもち(表1)、これらが相加相乗的に互いに影響を及ぼすことが知られています。
Friedらの基準では、体重減少、筋力低下、疲労感、歩行速度低下、低活動の5項目が検討項目であり、これらは身体的フレイルの評価に用いられています。
日常臨床において、私たちは「年齢」を重要視してしまいますが、そうではなく、"あとどれくらい生きるのか"という視点で考えたほうがより的確な判断ができるのではないかと思います。
高齢のフレイル患者にはどう対応すべきでしょうか?
高齢でフレイルの患者さんに共通しているのは、非常に多くの薬剤が処方されているということです。
ガイドライン遵守の治療を行うとどうしてもそうなってしまいがちです。
そこで注意すべきことは、ポリファーマシーの状況で抗凝固療法を行うと何が起こるかという問題です。
ROCKET AF のデータでは、ポリファーマシーの状態で抗凝固薬を加えると、ポリファーマシーのない患者さんに比べ死亡率はほぼ倍、出血もほぼ2倍になります6 )。 背景に様々な病気があるからではないかと思われるかもしれませんが、脳卒中の発症率に関しては差がありませんでした。 ということは、背景の病気が原因というわけではなく、ポリファーマシーと抗凝固薬の薬物相互作用、あるいはCYP代謝が関係している可能性も考えられます。
薬剤が増えれば当然転倒リスクは高まります。高齢者の10%以上が1年に1回以上転倒しているということが現状です7 )。 先ごろ、厚生労働省の医薬品適正使用の指針が発表され、高齢者の薬剤の適正化が奨励されていますが、実状としては薬剤がアドオン、アドオンとなりがちなので、まずは処方薬を整理する必要があると思います(図2)。
薬剤師へ期待されていることを教えてください。
高齢になればなるほど、保有する疾患が多種多様な組み合わせとなり、すべてを包括して見ることのできる立場にいる医療者は少なくなります。
このような状況で、「薬剤」という立ち位置から、高齢者を全人的に観察できる医療者が薬剤師です。 すべてを一人で背負う必要はもちろんありません。医師、看護師、介護士など医療チームの一員として、積極的にコミュニケーションに加わっていただくだけで、他の医療者が新たな気付きを得たり、あるいは安心感を得たりすることができるはずです。
"For the Team"として、これからの高齢化社会での新しい働き甲斐を見つけてほしいと思っています。
- 1)Inoue H, et al.: Int J Cardiol 2009; 137: 102-107
- 2)An Y, et al.: Eur Heart J Qual Care Clin Outcomes 2019; 5: 35-42
- 3)Akao M, et al.: J Cardiol 2013; 61: 260-266
- 4)An Y, et al.: Heart Vessels 2018; 33: 1534-1546
- 5)Nguyen TN, et al.: Heart Lung Circ 2016; 25: 551-557
- 6)Piccini JP, et al.: Circulation 2016; 133: 352-360
- 7)Dhalwani NN, et al.: BMJ Open 2017; 7: e016358




