循環器用語ハンドブック

個別化医療

遺伝情報、生活習慣など個々人の違いや特徴に合わせて、疾患の予防、治療を行うことを個別化医療という。精密医療(precision medicine)とも呼ばれることもあり、2015年に当時のオバマ米大統領が、一般教書演説において、"Precision Medicine Initiative"を発表して以降、世界的に注目されることになった。

従来型の医療は、平均的な患者を想定したone-size-fits-all型の医療であり、ある患者群には有効であるが、その他の患者には有効ではなく、医療経済の観点からも問題となっている。このような従来型医療からの脱却を促し、限りある医療資源を、より適切に疾患の予防や治療に活用するものとして個別化医療は期待されている。

癌領域での進歩が目覚ましく、ドライバー遺伝子変異に応じて、適切な分子標的薬を用いるなど、臨床応用がすでにされている。循環器領域でも個別化医療に向けた試みがされている。

日本人冠動脈疾患患者を対象としたゲノムワイド関連解析(genome wide association study;GWAS)によって、高い予測精度を持つ遺伝的リスクスコアの算出が可能であったと報告され(Nat Genet 52 : 1169-1177, 2020)従来のリスク因子に加え、遺伝情報を合わせて冠動脈疾患予防の個別化医療へと活用されることが期待される。

拡張型心筋症は、遺伝的にも、臨床経過においても不均一な疾患群であるが、本邦で同定されたBAG5遺伝子欠損による拡張型心筋症は、致死性心室性不整脈を頻発し、心臓移植を必要とする重症心不全を呈することが報告された(Sci Transl Med 14 : eabf3274, 2022,Circ J 86 : 2043, 2022)。一部の遺伝子機能欠損により発症する遺伝性疾患に対しては、アデノ随伴ウイルスを用いた欠損遺伝子の補充療法がすでに本邦でも保険適用となっており、今後遺伝情報に基づいた拡張型心筋症の個別化医療につながることが期待される。

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