循環器用語ハンドブック
癌治療関連心機能障害〈Cancer Therapeutics-Related Cardiac Dysfunction;CTRCD〉
癌治療に関する心血管系の合併症として、①心筋障害および心不全、②冠動脈疾患、③弁膜症、④不整脈、⑤高血圧症、⑥血栓塞栓症、⑦末梢動脈疾患および脳梗塞、⑧肺高血圧症、⑨心膜疾患の9つがある。このうち、癌治療関連心機能障害(Cancer Therapeutics-Related Cardiac Dysfunction;CTRCD)は、主に①癌治療薬により生じた心筋障害および心不全を指し、欧州心臓病学会の抗癌剤による心毒性の予防と治療に関する方針(position paper)2016では、「左室駆出率がベースライン値と比較して10%以上低下し、かつ正常下限値(一般的には53%)を下回る」と定義されている。
CTRCDは、主にアントラサイクリン系薬剤や抗HER2抗体薬で問題となるが、アルキル化薬や代謝拮抗薬など従来の殺細胞性抗癌剤や、最近ではチロシンキナーゼ阻害薬やプロテアソーム阻害薬においても発症が報告されている。CTRCD発症時には、当該治療薬の中止、心毒性の低い代替治療薬への変更、心筋保護薬(β遮断薬やアンジオテンシン変換酵素阻害薬/アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬)の開始を検討する。癌治療中ならびに治療後の心機能のフォローに関しては、たとえば、抗HER2抗体薬の心毒性は、投与量に関係なく心毒性が発生するため、薬物投与中の定期的なモニタリング(通常3ヵ月ごと)が必要である。また、アントラサイクリン系薬剤は、投与量依存性の心毒性が知られており、投与終了後も数年~数十年にわたって影響が遷延するため、投与中だけでなく、投与終了後の心機能フォローも重要であるといわれている。CTRCDは癌治療後の心血管イベント予測因子となるため、早期診断、早期治療に加え、予防も重要である。
最近の報告では、CTRCDが顕在化する前の潜在性心筋障害をとらえる指標として心エコー図検査におけるglobal longitudinal strain(GLS)が注目されている。

