プログラム
開催日時 |
2013年3月16日(土) 12:50~13:40 |
会 場 |
第10会場 (パシフィコ横浜会議センター 4F [411+412] ) |
座 長 |
弘前大学大学院医学研究科 循環呼吸腎臓内科学講座 教授 奥村 謙 先生 |
演 題 |
- 『心房細動アブレーションにおける薬物治療
~ 抗不整脈薬、抗凝固薬、抗炎症薬をいかに使用すべきか ~ 』
- 小倉記念病院 循環器内科 アブレーション部 主任部長 合屋 雅彦 先生
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※ランチョンセミナー、ファイアーサイドセミナーの参加にはセミナーチケット(無料)が必要です。
セミナーチケットは、第77回日本循環器学会学術集会ホームページのプレレジストレーションサイトでご登録いただけます。
開催当日の発行もいたしますが、数に限りがございますのでご了承ください。
抄 録
【座長のことば】 |
弘前大学大学院医学研究科 循環呼吸腎臓内科学講座 教授 奥村 謙 先生 |
心房細動(AF)アブレーションは2000年以降わが国でも多くの施設で実施されるようになり、日本不整脈学会前向き登録事業(J-CARAF)によると、2012年には約14,000例に対して施行されている。これはAFアブレーション手技がほぼ確立され、急性期および慢性期成績が安定してきたこと、抗不整脈薬療法に比してAF再発率が有意に低いこと、そして合併症への対策が講じられやすくなったこと、などが関係している。「不整脈の非薬物治療ガイドライン(2011年改訂版)」では、薬物治療抵抗性の発作性AFに対し、治療経験数の多い施設で行われる場合、AFアブレーションはクラスⅠ適応として記載されるに至っている。では薬物治療はもはや不要であろうか。決してそうではなく、例えばアブレーション前後の抗凝固療法は必須で、とくに新規抗凝固薬の使用法は今後の検討課題である。またアブレーション後、たとえ再発を認めなくとも血栓塞栓高リスク例に対しては継続する必要がある。抗不整脈薬も患者によっては考慮される。アブレーション後の再発は、AFまたは上室頻拍が30秒以上持続した場合と定義されるが、頻度が少なく、また持続も短い場合はただちに再アブレーションというのではなく、抗不整脈薬投与で経過を見ることもあっていいだろう。また持続性AFはアブレーション後もしばしば再発を認めるが、早期のアミオダロン投与により再発が抑制され、逆リモデリング効果も期待できるかもしれない。
AFアブレーションは非薬物治療であるものの、常に薬物治療をベースに進めるのが原則である。本セミナーでは、難治性不整脈に果敢に挑戦されている不整脈そしてアブレーション専門医に、AFアブレーション前後の薬物治療のあり方を熱く鋭く語っていただく。
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心房細動アブレーションにおける薬物治療
~ 抗不整脈薬、抗凝固薬、抗炎症薬をいかに使用すべきか ~ |
小倉記念病院 循環器内科 アブレーション部 主任部長 合屋 雅彦 先生 |
心房細動に対するカテーテルアブレーションは1998年にHaissaguerreらが肺静脈に起源を有する期外収縮に対する焼灼の有効性を報告して以後、単独の肺静脈隔離術、上大静脈などの非肺静脈起源の期外収縮に対する焼灼術、拡大肺静脈隔離術、catheter
mazeともいうべき線状焼灼術、complex fractionated electrogram
(CFAEs)を標的とした焼灼術、autonomic ganglionated plexus
(GP)に対する焼灼術、など新たな方法、焼灼の標的が次々と明らかとなり有効性の向上に資してきた。また当初は高周波がほとんどであったその焼灼エネルギーに関してもcryoablation、高周波ホットバルーンや、レーザーバルーン等が開発されており手技の簡便化、有用性の向上に資すると期待されている。
2000年代初頭には心房細動アブレーションは本邦でもまた世界的にも限られた施設で行われているのみであったが、その後の普及とともに抗不整脈薬無効症例に対する有効性、抗不整脈薬との比較によるアブレーションの優位性に関し次々と報告がなされた。現在では発作性心房細動に対しては85-90%の短期成功率、5年の長期観察期間でもほぼ80%の有効性が報告されている。これらにより2011年のACC/AHA/HRSのガイドライン、2012
年のESCのガイドラインでは孤立性心房細動に対するカテーテルアブレーションはClass
I適応となった。本邦においても“不整脈の非薬物治療ガイドライン(2011年改訂版)”では“高度の左房拡大や高度の左室機能低下を認めず,かつ重症肺疾患のない薬物治療抵抗性の有症候性の発作性心房細動で,年間50例以上の心房細動アブレーションを実施している施設で行われる場合”は
Class I
適応となった。手技の発展、成績の向上とともにアブレーション症例数も飛躍的に増加し現在では日常臨床に不可欠の治療法となった。しかしながらいまだ明らかでない諸問題も存在する。その一つはアブレーション手技前後、アブレーション後の薬物治療である。もっとも重要なものとして①アブレーション手技前後およびアブレーション後の抗凝固薬の使用法、②アブレーション後の抗不整脈薬の使用法、③アブレーション後の抗炎症薬の使用、また性格は異なるが、④生活習慣病としての心房細動に対する薬物治療、があげられる。
最近の欧州における多施設研究では心房細動アブレーションにより心タンポナーデ(1.3%)、穿刺部位の出血(1.3%)とともに脳血栓塞栓症(1.3%)の合併症のリスクが報告されている。また4-35%で無症候性の脳梗塞が生じるとの報告もなされている。本邦のガイドラインでは言及されていないがESCのガイドラインではワーファリン継続下でのアブレーションが推奨されている。しかし新規抗凝固薬ではいまだ明らかではない。新規凝固薬はワーファリンに比し半減期が短く、拮抗薬がないことから今後の検討を要する。
またアブレーションにより長期間洞調律が維持されれば抗凝固薬の投与の中止が検討される。心房細動アブレーション成功群を対象とした後ろ向き解析では,アブレーション3~6か月後に抗凝固薬を中止にした群と継続した群を比較すると,約2年間の脳塞栓症と大出血の頻度は中止群で有意に低かったと報告されている。前向きの大規模無作為試験による確認が必要であるが,現時点では少なくとも血栓塞栓症のハイリスク例ではアブレーション後にも継続すべきであろう。
心房細動に対する抗不整脈薬の使用に関してはVaughan Williams分類や、Sicilian
Gambitの分類表、ガイドラインを参考として選択することが可能であるが心房細動アブレーション後の抗不整脈薬の使用に関しては定まったものはなく経験的に選択されているのが実情である。本邦で最もひろくおこなわれている拡大肺静脈隔離アブレーションでは術後に迷走神経障害が優位となる自律神経障害が報告されていることから我々の施設では発作性心房細動に対するアブレーション後の早期再発ではベータ遮断作用をも有するプロパフェノンを、持続型心房細動に対するアブレーション後の再発例ではベプリジルにβ遮断薬を併用することが多い。
心房細動アブレーション後早期(術後2~3か月以内)に心房性不整脈が出現するが慢性期には再発を認めないことは多く経験される。そのことから術後2か月は一般にblanking
periodとされその間に認められた心房性不整脈は再発とはみなされない。この早期の再発は高周波通電による一過性の心筋の炎症が関連しており慢性期には炎症の治癒とともに心房性不整脈が消失すると考えられてきた。しかし最近の報告では術後早期の再発が術後慢性期における再発の最も有力な予測因子であったとされている。術後早期の炎症は低用量のステロイドの使用により抑制が可能とも報告されており他の抗炎症作用を有する薬剤も含め今後の検討が期待される。
また心房細動は他の不整脈疾患と異なり生活習慣病の側面も有しており血圧のコントロール、糖尿病のコントロール等、その観点からの薬物使用も考慮されるべきである。
本セッションでは心房細動アブレーション前後の薬物使用に関し最新の知見を加え検討したい。 |
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