心房性(A型)ナトリウム利尿ペプチド〈atrial(A-type)natriuretic peptide;ANP〉

心房性(またはA型)Na利尿ペプチド(ANP)は、1984年にヒトおよびラット心房より単離されたペプチドである。血中に多く認められるα型は28個のアミノ酸よりなる(図)。脳型(B型)Na利尿ペプチド(BNP)と同様、心臓より分泌される心臓ホルモンとして注目を集めている。

ヒトNa利尿ペプチドファミリーの構造

ANPは強力なNa利尿作用、血管拡張作用、レニン-アンジオテンシン系、抗利尿ホルモン(antidiuretic hormone;ADH)、交感神経系を抑制する作用をもち、種々の血管収縮因子に対して拮抗的に働く。ANPは主に心房にて合成され顆粒として貯えられており、心房負荷がかかると心房筋が伸展され、顆粒中のANPは直ちに放出される。心房負荷が続けばANP合成はさらに進み、血中濃度は増加する。

臨床では、血中濃度測定による心不全の重症度把握とともに、合成ANPが急性心不全治療薬として使用されている。ANP0.05~0.2γを投与すると血行動態上、肺動脈楔入圧・全身血管抵抗の低下をもたらし、心拍出量係数を増加させる。つまり、前負荷・後負荷を軽減し、左心機能を改善させる。神経体液性因子では、交感神経系およびレニン-アンジオテンシン系を抑制し、腎機能については著明な利尿およびNa利尿を示す。血管拡張作用と利尿作用を併せ持った有用な薬剤であるが、過度の血圧低下には注意する必要があり、重症低血圧、血管内脱水の症例では使用禁忌となる。