Ebstein(エプスタイン)奇形〈Ebstein's anomaly〉

先天性心疾患の1%未満にみられるまれな疾患で、三尖弁の中隔尖と後尖が心尖寄りに付着している解剖学的異常である。解剖学的右室の一部が右房化し(右房化右室)、三尖弁閉鎖不全を呈する(図)。時に卵円孔開存や心房中隔欠損、心室中隔欠損や肺動脈狭窄の合併奇形を認める。新生児期から重篤な症状を呈する例では、重度の三尖弁逆流による右心不全症状と心房中隔欠損を介する右左短絡によるチアノーゼを呈する。肺動脈弁は、解剖学的または機能的に閉鎖していることが多く、この場合肺血流は開存した動脈管から供給される。生後の動脈管閉鎖後も、右室から肺動脈へ順行性血流を拍出できればチアノーゼの増強は認めないが、肺動脈閉鎖や肺動脈へ順行性血流を拍出できないような右室機能低下例、肺低形成による肺血管抵抗の高い症例では、動脈管の閉鎖に伴いチアノーゼは増強する。

Ebstein奇形

本症の多くは小児期以降に症状を呈し、主症状は徐々に増悪する三尖弁閉鎖不全による右室不全症状である。主に上室性不整脈を生じやすく、WPW症候群を合併することが多く、また右房拡大による高く幅広いP波を呈する。心臓超音波検査では右室心尖部方向への三尖弁付着の偏位がみられ、心臓カテーテル検査で右房化右室での心内心電図は心室波形に、心内圧波形は右房内圧に類似する。軽症例では治療や運動制限は必要ない。うっ血性心不全では強心薬、利尿薬の内科的治療が必要である。頻脈性不整脈にはカテーテル・アブレーションによる副伝導路切断を行う。内科治療に抵抗例では、三尖弁形成術または三尖弁置換術を施行する。新生児期に発症する、重篤な右室の拍出が望めない症例に対してはFontan手術を行う。