HFpEF〈heart failure with preserved ejection fraction、拡張不全〉

1980年頃までは、心不全とは左室駆出率低下に代表される左室収縮機能障害により生じるものと考えられてきたが、その後の研究により心不全症例の約30~60%では左室駆出率が保持されている(preserved ejection fraction)ことが明らかとなった。このような心不全は左室拡張機能障害に起因するとされ、拡張不全(HFpEF)とも呼ばれるが、駆出率が低下した心不全(heart failure with reduced ejection fraction;HFrEF)でも拡張機能障害を認めることが多いため近年は主にHFpEFと呼ばれることが多い。高齢の女性に多く、原因疾患として最も多いものは高血圧性心疾患である。予後は駆出率の低下したHFrEFと同様に不良である。

診断は、①臨床的「心不全」の診断にあてはまる(例:Framingham基準に合致するなど)、②左室駆出率の低下を認めない、かつ③拡張機能指標の異常を有することである。しかしながら現在、拡張機能を非観血的に評価することが困難なため、臨床の現場では、①と②を満たすものとなっている。

左室拡張機能は左房から左室への血液の流入動態を規定する。拡張機能障害が起こると、充満圧を高めないと左室流入血液量(=左室拍出血液量)が維持できない。そのため左室収縮性の低下が著明でなくても、拡張機能障害により左房圧、肺静脈圧が上昇して肺うっ血を惹起し、心不全症状発現に至る。拡張機能の障害は、左室肥大と線維化などの組織学的変化と密接に関連し、病態形成にレニン-アンジオテンシン-アルドステロン(RAA)系などの関与が報告されている。

治療に関しては、HFrEFと異なり予後改善効果を示す明確な薬剤はない。CHARM-Preserved試験、PEP-CHF試験、I-PRESERVE試験、TOPCAT試験などでもRAA系の阻害薬の有用性は示されず、β遮断薬についてもわが国における前向き試験であるJ-DHF試験において、用量の問題は残されているが、心不全入院と心血管死の明確な抑制効果は示されていない。

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