β遮断薬の降圧薬としての歴史は古いが、降圧薬としてのβ遮断薬は大きな転換期を迎えようとしている。最近の大規模臨床試験やそのメタ解析の結果から、β遮断薬はレニン-アンギオテンシン系阻害薬やカルシウム拮抗薬などと比較して降圧効果が弱く、心血管イベント抑制効果が必ずしも優れていないということが明らかになったからである。一方、心不全、冠動脈疾患、頻脈性不整脈患者、心房細動患者におけるβ遮断薬の有効性は揺るぎなく、各種ガイドラインでは積極的な使用を推奨している。さらに、糖尿病、PAD、COPDなど従来β遮断薬の使用がためらわれていた患者にこそ、β遮断薬を使用すると生命予後が改善することが報告され、これほど従来の常識を覆しつつある薬剤は他にない。
- ■積極的にβ遮断薬を使うべき疾患
- 1.収縮性心不全
- β遮断薬には陰性変力作用があるため、長い間、心不全患者には禁忌とされてきた。しかし、多くの大規模臨床試験によってβ遮断薬の予後改善効果が確認され、今や収縮不全患者の治療に欠かすことが出来ない。β遮断薬の心不全患者予後改善の機序は未だ十分に解明はされていないが、心筋エネルギー需要の低下と心筋虚血の抑制、抗不整脈作用による突然死の抑制、内因性カテコラミンによる心筋障害からの心保護作用、心筋細胞内のカルシウム代謝の改善などが提唱されている。β遮断薬は慢性心不全患者の死亡率を30%程度低下させることから、禁忌がない限り、軽症から重症まで全ての患者においてβ遮断薬の投与を考慮すべきである。
軽症例では外来での導入が可能であるが、重症(NYHA Ⅲ度)以上や高度心機能低下がある患者では入院の上、少量から開始し(カルベジロール;1.25~2.5mg/日、ビソプロロール;0.3125~0.625mg/日)、緩徐に漸増する必要がある。この操作をtitrationという。心拍数を目安にして、70拍/分未満を目指すと良い。
- 2.心筋梗塞症例の二次予防
- 数多くの大規模臨床試験により、β遮断薬が心筋梗塞の急性期治療としてだけではなく、慢性期の二次予防にも有効である。特に、β遮断薬による二次予防効果は死亡率の高いハイリスク症例、すなわち心不全、心機能低下、心室性不整脈を有する症例や再灌流療法が行われていない患者で、より著明である。心筋梗塞の長期予後は、残存虚血、致死的心室性不整脈、心不全などで規定されるが、β遮断薬はこれら全ての因子に対して有効であり、心筋梗塞後の二次予防において重要な位置を占めている。特に左室駆出率が40%未満の低心機能例では、交感神経系の亢進状態になりやすく、それを抑制することに降圧を越えた意義があり、欧米のガイドラインでは積極的使用が推奨されている。
- 3.心房細動のレートコントロール
- 心房細動の自覚症状の多くは頻脈によるものである。また、心房細動に頻脈が合併すると心不全発症のトリガーになることも少なくない。現在、心房細動の脈拍コントロールに使用する薬剤には、β遮断薬、非ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬、ジギタリス製剤などがある。中でもβ遮断薬は、心房細動の脈拍コントロールにおいて最も忍容性、有効性、安全性に優れるとされている。特に、運動時の頻脈を抑制することから、自覚症状の改善効果が強く、心不全患者の予後も改善することから、第一選択薬の位置づけである。
- 4.心臓突然死の予防
- 心室頻拍、心室細動などの心室不整脈の多くは器質的心疾患に合併する。心室不整脈の有無は心肥大、心不全そして心筋梗塞患者の予後を規定する重要な因子である。抗不整脈薬の心筋梗塞後の生命予後改善効果を検討したEMIAT試験とCAMIAT試験のメタ解析ではβ遮断薬の死亡率低下作用が大きかったことが示されている。β遮断薬は抗不整脈薬と比べると直接的な抗不整脈作用は弱いものの、催不整脈作用がなく、安全性も高い。よって、β遮断薬は器質的心疾患を有する症例、心機能低下例のような心臓突然死リスクのある患者に対して第一選択として用いるべき薬剤であると言える。
- ■貼付薬という新たな選択肢の登場
新たにビソプロロールの貼付剤が登場した。従来の経口薬に比べて以下の特徴がある。
- (1)皮膚からの吸収により緩徐に血中濃度が上昇し、それが長く維持される。
- (2)トラフ値が比較的高く保たれ、血中濃度の変動が緩徐であり、安定した値が維持される。
- (3)経口摂取が困難な患者(嚥下障害や術後、重症患者)に投与しやすい。
- (4)貼付剤の表面に日付を記入することで、アドヒアランスの改善に役立つ。
- 本セミナーでは以上の事柄に関してわかりやすく述べる予定である。
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