第7回 急性増悪時のアセスメント~薬剤師の視点での心不全評価~

薬剤師が心不全の急性増悪時の評価をする目的

急性増悪の評価は急性期病院のICUやHCU、循環器病棟担当薬剤師だけで十分という意見も多いかもしれません。しかし、心不全の増悪時には安定時と比較し症状および病態が明確に出現します。すなわち、急性増悪時の症状および病態の理解は、薬物療法の目的の理解と心不全増悪傾向の早期発見を可能とします。今後、心不全患者が増加の一途を辿る今こそ、急性増悪時の症状および病態の理解はすべての薬剤師に必要であると考えます。

心不全の病態は血液の渋滞

心不全の病態は、血液の渋滞によるうっ血と低心拍出です。高速道路の渋滞をイメージするとよいかもしれません。血液中の水分が自動車、血管は道路です。
このイメージを持ちつつ左心室の収縮機能が低下した場合について図を用いて解説します(図1)。
まず、うっ血の病態を解説します。うっ血は静脈系の血液が渋滞を起こし、血管(道路)がパンパンに膨れて、血液中の水分(自動車)が血管外に漏れます。漏れた部位でうっ血症状が起こります。左心室の機能低下により血液の渋滞が起こり、渋滞が伸びて左心の手前にある臓器である肺(血管)まで至ります。ここで血液中の水分が血管外に漏れます。これが左心不全症状の肺うっ血(肺水腫)、呼吸困難、起坐呼吸を引き起こします。さらに血液の渋滞が続くと、右心と大静脈に到達します。これが静脈系のうっ血による右心不全症状の下腿浮腫、胸水、食欲不振(腸管が浮腫む)につながります。このため、薬物療法の中心は利尿薬と硝酸薬です。利尿薬は余分な水分(自動車)を腎臓から排泄します。硝酸薬は主に静脈血管(道路)を広げて水分(自動車)の血管外への漏れを防ぎます。
次に、低心拍出症状の病態を解説します。左心室の機能低下により全身への血液の拍出量が低下します。結果、各臓器で血液・酸素が不足し、低心拍出症状が起こります。例えば、動脈で起こるため、血圧低下をきたします。薬物療法の中心は強心薬(ドブタミン等)です。

図1 心不全の病態イメージ
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急性増悪時の受診勧奨は症状と病態理解がカギ

急性増悪時の症状と病態がわかれば、ガイドラインに記載のある受診勧奨の意味が理解できます。具体的には、左心不全および右心不全症状の日々の増悪を把握できれば、受診勧奨(院内であれば主治医への報告)のタイミングです(図2)1)
今回は紙面の関係上、割愛した部分も多いですが、日本心不全学会の心不全手帳第3版(無料ダウンロード可)の「心不全のサインの観察」の症状を今回の病態理解に照らし合わせると、より受診勧奨の理解が深まると思います。

図2 心不全増悪時の受診勧奨
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(佐古先生)

循環動態を意識した病態把握

心不全の急性増悪時の症状および病態の理解は、薬物療法の目的の理解と心不全増悪傾向の早期発見につながるというお話が佐古先生よりありました。
この中で最も重要と言っても過言ではないキーワードとして「病態の理解」があり、これは心不全のみならず、循環器疾患全般、更に広く言うと薬物治療を必要とする全ての疾患においても同様と言えます。では、循環器疾患の薬物治療のフォローアップを考える場合には、様々ある循環器疾患の"一つ一つの病態の理解とそれに対応したフォローアップ"を考えていけば良いのですね?と思うかもしれません。ここにキーワードである「病態の理解」という言葉の捉え方において大きなピットフォールがあるかもしれません。
循環器疾患一つ一つの病態理解とそれに対するフォローアップを考えることは、全く問題のない素晴らしい姿勢であると思います。しかし、循環器疾患という大きな枠組みにおいて、その病態の最大の問題点は何か?を考えた場合に、誤解を恐れずに言うとそれは循環動態の破綻です。循環器疾患の「病態の理解」を考える場合には、下図のイメージのように個々の病態の理解の軸として循環動態を常に意識する必要があると言えます(図3)。
心不全は病名ではなく、「様々な要因により心機能が低下して、全身の臓器が必要とする血液を十分に送り出せなくなった状態」であることを考えると、このような病態の捉え方は心不全の薬物治療のフォローアップを考える場合には必須であると言えます。

図3 病態理解の軸としての循環動態
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そして、病態を常に意識することで、個々の病態という「点」から循環動態という「幹」を通じた線での薬物治療のフォローアップが可能となります。
さらにこの視点は一見、循環器疾患とは関係の無いように見える薬剤も実はキードラックかもしれないという気づきにもつながります。例えばカリウム製剤が処方されていた場合。発作性心房細動の発症をきっかけに心不全の急性増悪を繰り返す患者さんに対してカリウム製剤が処方されている場合には、詳細は割愛しますが、低カリウム血症は不整脈の誘発因子なのでそれを防ぐ処方意図もあるかもしれない、と気づきのきっかけになる可能性があります。抗不整脈薬+カリウム製剤が処方されていた場合には、更にその可能性が高いかもしれません。また、別の視点でこの抗不整脈薬+カリウム製剤の処方を考えると、低カリウム血症はQT延長因子でもあることから、その意図はQT延長に伴うトルサード・ド・ポアントの発症を防ぐ処方意図の場合もあるかもしれません。このように、循環動態の破綻リスクという視点から逆算して薬物治療を捉えることで、個々の病態に応じたフォローアップポイントが見えてくるはずです。

モダリティ検査の活用

では、幹である循環動態という視点での病態把握をどのようにすれば良いか?というと佐古先生の図1がその基となります。この評価を行っていく上で絶対的に必要な評価項目として、主に心エコーによって測定される心機能があります。これは今まで薬剤師が積極的に活用してこなかった画像検査で、その評価が難しいのでは?と思うかもしれませんが、その評価項目は数値の記載であり、多くはレポートに現在の心機能についての評価記載がされています。病態評価の幹としての検査ですので、その理解は必須と言えます。
その他、胸水や肺水腫等の項目も主に胸部X線、不整脈であれば心電図等、今まで薬剤師が薬物治療のフォローアップに積極的に活用していなかったモダリティ検査は様々あります(表1)。これらの理解は病態の理解のみならず、多職種との連携の共通言語という視点からも必須になると思います。

表1 活用可能なモダリティ検査
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(梶原先生)

最後に

心不全急性期の病態理解は、薬物療法の意図や症状出現時の緊急性の判断を可能とします。また、多職種との共通言語にもつながります。本稿が日々、心不全患者への関わりに悩んでいる先生方がさらに患者さんに寄り添える一助になれば嬉しく思います。

(佐古先生)


心不全とは病態ではなく状態であり、その要因には様々な背景があります。よってその病態を理解することは薬物治療のフォローアップを行っていくために重要であり、そしてそれを成し得るためにはモダリティの活用、理解は必須な要素です。本稿をきっかけとしてモダリティを活用してみよう、薬物治療のフォローアップを更に掘り下げてみようと少しでも思っていただけたら幸いです。

(梶原先生)


文献)
1)日本循環器学会/日本心不全学会.急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2017/06/JCS2017_tsutsui_h.pdf.2023年10月閲覧

図1 心不全の病態イメージ

図2 心不全増悪時の受診勧奨

図3 病態理解の軸としての循環動態

表1 活用可能なモダリティ検査