日本循環器協会の取り組み
原田 睦生(東京大学大学院医学系研究科循環器内科講座 先端臨床医学開発講座)

 本循環器協会(以下、JCA)は、日本循環器学会(以下、日循)、日本心臓財団とともに活動し、循環器病患者・家族、自治体や企業との連携を基盤として循環器病診療と研究のプラットフォームの役割を担う新組織として、2021年5月10日に設立された。
 さかのぼること2018年、超高齢社会における循環器病患者の急増に対応するために脳卒中・循環器病対策基本法が成立し、2020年には循環器病対策推進基本計画(以下、基本計画)が閣議決定された1)。この基本基本計画の施策は大きく3つに分かれる。すなわち(1)予防啓発、(2)医療サービスの充実、(3)研究促進、の3つである。この3つの施策はさらに細分化されているが、現状の枠組みでは基本計画への対応が困難であることがわかってきた。例えば、「子供の頃からの知識の普及啓発」や「健診、社会連携、相談支援」、「産学連携による調査研究」などがそれである。このような、主に病院”外”で他団体と連携した事業活動は、これまで循環器領域で中心的役割を演じてきた日循のようなアカデミア集団ではリーチできない分野と考えられ、新たな枠組みの必要性が叫ばれるようになった。そこで設立されたのがJCAである。

日本循環器協会の事業活動「7つの柱」

 JCAは患者・家族、自治体、企業(製薬、機器、検査、保険、食品など)など他団体との連携を基盤として基本計画の実行部隊として機能する。基本計画のなかでJCAが担当する役割を一言でまとめると「日循でリーチできないことすべて」ということになる。この要求を満たすためにJCAに設置された委員会が次の7つの委員会である。すなわち、予防啓発委員会、患者連携委員会、人材育成委員会、医療連携委員会、調査研究委員会、国際交流委員会、そして産官学連携委員会の7つである(図1)。

図1 JCA「7つの柱」を構成する7つの委員会
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 「予防啓発」は7つの事業活動の中でとりわけ重要である。これまでも日循を中心として予防啓発活動は取り組まれてきたが、日循を構成する循環器専門医は病院や診療所が活動の場であり、病院の外にいる循環器病予備軍の人びとへの予防啓発までは手が回らないのが実情であった。しかしながら、心不全ステージ分類において高血圧などの生活習慣病が心不全ステージAに昇格するなか2)、高血圧予備軍ともいわれる血圧130mmHg台の人びとへの疾患啓発はますます重要になっている。心不全は進行性の病気であり、一方通行に落ちていく穴にも例えることができるが、多くの国民はそこに穴があることすら知らずに生活し、いつの間にか穴に近づいている(図2)。このような状況において「そこに穴がある。近づくな、落ちるな」というメッセージを、学校教育やSNSなどあらゆるチャンネルを介して国民全体に啓発していくことが、JCAに求められる大きな使命である。

図2 「心不全の穴」に近づかないように声がけするのがJCAの予防啓発
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 次に「患者連携」についても述べたい。これまで循環器領域では心不全や心筋梗塞などの患者会は設立されてこなかった。これには急性増悪と慢性寛解期を繰り返すという循環器疾患の特徴が関連しており、「急性期は苦しすぎて声をあげられず、慢性寛解期には”治った”と錯覚して声を上げない」ことが原因といわれる。このため、日本循環器協会では既存の患者会との連携強化に加え、新たな患者会設立の後押しも行い、より多くの患者や家族の声を拾い上げる体制を整える。また、患者相談センターといった患者との新たな接点を開設し、不特定多数の患者・家族が抱える多様な悩みを解決する。このような活動により患者・家族の視点に立ったより質の高い循環器診療を目指す。
 もう一つ、これまでの日本循環器学会を中心とする活動で対応しきれなかった領域として「産学連携」がある。アカデミア集団である日循は、その医学的中立性を保つために製薬企業や医療機器企業との連携を避けてきた。一方で、企業の社会的責任(CSR)を果たそうとする医療産業事業者は年々増加している。JCAではそのような事業者の受け皿となるべく、新たに「産産協議会」を立ち上げた3)。これは、JCA賛助会員(トーアエイヨー株式会社を含む23社)が業種の垣根を超えて一堂に集い「あるべき産学連携の形」を循環器分野で実現することを大きな目標に掲げ意見を出し合う新たな会議体である。医療産業事業者がJCAを介してより効率的な社会貢献ができるよう、足並みをそろえて推進する計画である。

日本循環器協会の関連団体

 日本循環器協会のロゴマークには三人のヒトと、それを包み込むハートと手が描かれている。三人のヒトは、患者、医療者、企業の3者による三位一体の精神を表す。さらに、日本循環器協会は日本循環器学会、日本心臓財団との連携を基盤として循環器診療のニッチを補完する役割を演ずることから、これら3団体の三位一体の意味も表す。このようにに、日本循環器協会は設立趣旨そのものが「他団体との連携」を基礎としており、寒冷団体も多い(図3)。

図3 日本循環器協会の関連団体と循環器診療における立ち位置
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具体的な事業活動

 ここでは、30以上ある当協会の事業活動案から一部を紹介する。

1.【健康ハートの日】
 8月10日が810(ハート)と読めることから、1985年にこの日を「健康ハートの日」とすることを日本心臓財団が提唱し、予防啓発活動を行ってきた4)。2021年からはJCAが参画し、日循とあわせて3団体共催で予防啓発活動を行っている。2023年はJリーグ発足30周年という節目の年であり、Jリーグ/『キャプテン翼』/元サッカー日本代表 中村憲剛氏の協力を得ながら、広く国民に啓発を行う予定である(図4)。

2.【循環器病患者みんなのWA】
 JCA連携会員として入会した循環器系患者7団体が主体となり、患者とアカデミアの繋がりを促進し新たな共同事業を進めるために結成したのが「循環器病患者みんなのWA」である。すべての患者会に共通した課題をみんなで確認したり共同でニーズ調査を行ったりすることで、疾患診療のみならず社会生活を送る上での多様な課題解決を目指す。

3.【循環器病アドバイザー制度】
 「循環器病は予防できる。しかし、そのことを知る一般市民は少ない」、このような課題認識が循環器病アドバイザー制度の出発点である。病院の中で活動する医療者では病気になる前の一般市民に声を届けることは難しいため、「予防のための伝道師」を新たに育成する必要がある。循環器病アドバイザー制度は一般市民の身近にいる職種を対象にe-Learningとオンラインテストで構成される資格制度を開始し、伝道師を育成する。初年度は保険外交員や健康産業の従事者を対象に開始し、来年度以降は介護福祉士、薬局薬剤師、製薬企業社員などに広げていく計画である。

図4 健康ハートウィーク2023 心臓病啓発アンバサダー:三杉淳<sup>*</sup> #14
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おわりに

 2021年5月10日の設立から2023年6月10日現在までの、日本循環器協会の活動内容について説明した。2007年に施行されたがん対策基本法によりがんの診療体制と研究体制は大きく強化され5年生存率も改善したことは周知の通りである。同様に、2019年12月に施行された循環器病対策基本法は20年後の循環器病診療体制と研究体制を大きく変えることが期待される。日本循環器協会はその変化を支えるために設立され、今後も国民の健康と福祉に貢献する決意である。


文献)
1) 厚生労働省:(資料1)循環器病対策推進基本計画の概要
  https://www.mhlw.go.jp/content/10905000/000688414.pdf
2) 日本循環器学会/日本心不全学会:急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)
  https://www.j-circ.oe.jp/cms/wp-content/uploads/2017/06/JCS2017_tsutsui_h.pdf
3) PR Time:「日本循環器協会、死因の第2位を占める循環器病の改善に向けた新たな連携の枠組みを導入」(2023年2月28日)
  https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000002.000117401.html
4) 健康ハートの日ホームページ
  https://www.kenko810.com/

2024年10月作成

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図1 JCA「7つの柱」を構成する7つの委員会

図2「心不全の穴」に近づかないように声がけするのがJCA の予防啓発

図3 日本循環器協会の関連団体と循環器診療における立ち位置

図4 健康ハートウィーク2023 心臓病啓発アンバサダー:三杉淳<sup>*</sup> #14