第76回 日本循環器学会総会・学術集会 ファイアサイドセミナー FS-5

共催:第76回日本循環器学会総会・学術集会/トーアエイヨー株式会社

プログラム

開催日時 2012年3月16日(金) 18時30分~19時30分
会  場 第7会場 (福岡国際会議場4階 「402・403」)
テ ー マ 心筋梗塞二次予防における硝酸薬の位置づけ
     ~心筋梗塞二次予防ガイドライン(2011年改訂版)を踏まえて~
座  長 金沢大学医薬保健研究域医学系臓器機能制御学 循環器内科 教授 山岸 正和 先生
演  者 熊本大学医学部附属病院 高度医療開発センター 心不全先端医療講座 特任准教授 小島 淳 先生

※軽食をご用意しておりますが、ご参加にはあらかじめファイアサイドセミナー整理券(無料)が必要です。なお、先着順に受付けさせていただきますのでご了承ください。

抄 録

【座長のことば】
金沢大学医薬保健研究域医学系臓器機能制御学 循環器内科教授 山岸 正和 先生
 虚血性心疾患の治療目的は、短期的には運動耐容能を改善してQOLを向上させ、長期的には心筋梗塞や突然死を防止して、生命予後を改善することである。虚血性心疾患に対する硝酸薬の使用には、1879年にニトログリセリンが狭心症に有効であることが証明されて以来、長い歴史がある。持続性硝酸薬の有用性については、一時期、服用耐性などの面から疑問が出されていた。しかし、本当に予後を悪化させるのかについて、propensity scoreにより背景因子をマッチングさせた最近の研究では、イベント発症を低下させるという結果もみられる。我が国における心筋梗塞二次予防ガイドラインは、2000年に初めて発表され、その後2006年に1回目の改訂版が発表された。今回、2回目の改訂(2011年改訂版)が発表されるに当たり、ガイドラインの改定内容を踏まえて、心筋梗塞二次予防における硝酸薬の位置づけを中心に、最近の研究成果を紹介戴く予定である。

『心筋梗塞二次予防における硝酸薬の位置づけ
     ~心筋梗塞二次予防ガイドライン(2011年改訂版)を踏まえて~』
熊本大学医学部附属病院高度医療開発センター 心不全先端医療講座 特任准教授 小島 淳 先生
 我が国における心筋梗塞二次予防ガイドラインは日本循環器学会や日本心臓病学会等複数の学会の合同で作成し、2000年に初めて循環器病の診断と治療に関するガイドライン(1998-1999年度合同研究班報告)「心筋梗塞二次予防に関するガイドライン」(班長 木之下正彦)として誌上発表された。その後1回目の改訂版である循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2004-2005年度合同研究班報告)「心筋梗塞二次予防に関するガイドライン」(2006年改訂版)(班長 石川欽司)が発表された。今回は2回目の改訂(2011年改訂版)となる。
 欧米ではメタアナリシスが可能となるほど多数の大規模無作為割付臨床試験が施行され、これまで我が国のガイドラインにも多く反映されてきた。しかし、日本人は冠攣縮が欧米人に比べ3倍多く存在するなど、欧米のエビデンスをそのまま流用できない可能性があることも問題視されていた。我が国でもJAMISなどを皮切りに数多くの臨床試験が施行されるようになってきたが、中でもJBCMIでは、日本人は心筋梗塞後のカルシウム拮抗薬はβ遮断薬と同等の有用性を示し、β遮断薬投与により冠攣縮の発症が多くなることを明らかにしたことで、我が国独自のエビデンスとして確立された。その後、日本人の心筋梗塞患者を対象としたJACSS、JCAD、HIJAMIなどの臨床研究が次々に発表された。これらによると、日本人では心筋梗塞急性期にPCIが施行され再灌流に成功している現状がある。また日本人は一枝病変や冠攣縮の合併が多いなど欧米との違いが明らかにされてきている。そのため本ガイドラインである2011年改訂版では、2006~2010年までの5年間で、特に日本から生まれた心筋梗塞に関する新たなデータを積極的に盛り込むこととした。冠動脈インターベンション時代である日本の現状に即して作成されており、実臨床に対応できるガイドラインに仕上がったと思われる。
 心筋梗塞慢性期の2次予防としての硝酸薬長期投与の有効性については、これまで十分な根拠となる大規模無作為化比較試験がない。前回の2006年改訂版ガイドラインでは虚血発作や心不全のない心筋梗塞患者に対する硝酸薬(長時間作用型)の長期投与はクラスIIIとされていた。硝酸薬投与が予後をかえって悪化させるという成績を示したいくつかの報告を根拠としている。当時の報告を見ると、無作為化が十分に行われていなかったために硝酸薬投与群に重症例が偏っていたり、薬物療法の標準的な治療法が現在とは異なっていたこと、急性期の再灌流療法もまだ十分には普及していなかったことから、当時の結果をすべて硝酸薬の効果と結論づけることは難しい。現在では、心筋梗塞の急性期治療として冠動脈インターベンションが普及し、さらに複数の薬剤が併用される濃厚な標準的治療が一般的となっており、硝酸薬の有効性について再検証する必要がある。薬物治療の評価を行うには無作為化比較試験が望ましいが、多大なタイム、パワー、マネーなどが必要となり、簡単に行えるものではない。またイベント発症率が低い日本人を対象として1剤の薬物治療の有効性を見いだすためにはかなりの多数例での検討が必要と考えられる。一方、観察研究でも無作為化比較試験により近い結果を得ることを目的として患者背景や治療選択のバイアスを調整した統計学的手法(propensity score analysis)を用いることがある。この手法を用いてJACSSやHIJAMIデータで解析したところ、硝酸薬投与群は非投与群と比べ予後に差は認められなかった。またJCADでは硝酸薬はイベント発症を減少させるという結果が得られた。以上より少なくとも冠動脈インターベンション時代では、硝酸薬の長期投与が予後を悪化させるという成績は示されていない。国際的な急性冠症候群の大規模観察研究であるGRACE試験では、硝酸薬が投与されていた10,555例と投与されていなかった42,138例では急性冠症候群を発症した時の臨床像が異なることが報告された。硝酸薬非投与群において、入院時にST上昇型心筋梗塞(STEMI)と診断された症例が41%認められたのに対し、59%がST非上昇型急性冠症候群(NSTEMI)であった。一方、硝酸薬投与群では、STEMIは18%でNSTEMIは82%であり、硝酸薬投与群においてはSTEMIを発症する頻度はNSTEMIに比べ4分の1と低く、多変量解析でも硝酸薬投与はSTEMIをおこしにくい独立した因子であった。また硝酸薬投与により心筋障害マーカーの上昇も抑制されており、硝酸薬の薬理学的プレコンディショニング効果との関連が示唆されている。このような最近の知見もふまえ、本ガイドラインでは硝酸薬におけるクラス分類を新たに策定した。
 硝酸薬では耐性が生じることは広く知られているが、上記の研究において硝酸薬の詳細かつ具体的な投与方法については言及されていない。硝酸薬耐性が臨床的にどの程度影響するのか、イベント発症に大きく関与しているのかは不明であるものの、硝酸薬を長期的に使用するためには、少なくとも耐性発現を防ぐことを意識して使用したほうがよいと思われる。間欠的に投与したり不均等に投与するなどの工夫が必要であるが、あくまで医療側も心筋梗塞後の患者を注意深く観察する必要があり、患者の病態にあわせた用いられ方があることを考えると、硝酸薬の投与方法は症例に応じて異なっていても全くおかしくはない。硝酸薬を漫然と使用すべきではなく、有効性を大きく引き出すような使用法を医療側も十分考慮することで、古くから用いられてきた硝酸薬ではあるが、将来的に新たな心筋梗塞二次予防薬として台頭していく可能性を秘めているかもしれない。

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